前回まで、「平成29年度試行調査問題」を取りあげていましたが、
それに関わることで、3月にニュースになったことがあります。
それが、「大学入学共通テストで活用される民間試験」についてです。
現行英検 落選ショック
朝日新聞の2018年3月27日(火)付け第35面に掲載されていた記事です。
2020年度に始まる大学入学共通テストの英語で活用される4技能を測る民間試験に、8種が合格した。だが、学校も解錠となり、多くの中高生が受けている現行の英検が落選。各試験の成績を国際基準に当てははめて比べる方法に疑問の声も上がり、経済的、地域的な格差の問題に改めて注目が集まる結果となった。
ー「文部科学省後援の英検がまさか落ちるとは」。英検を実施する日本英語検定協会の幹部の、審査結果に驚きを隠さない。
ー英検(小学生向け英検などを含む )は2016年度、約340万人が志願した国内最大の英語の民間試験だ。約400の本会場のほか、学校単位などの準会場が約1万7千カ所あり、教員が試験監督を務める。志願者のうち中高生は約260万人をしめるが今の方式の「従来型」は共通テストでは認められない。
ー協会は今年8月から来年にかけて、共通テストに対応した「新型」の試験を3種類始める予定。筆記とリスニングの1次試験の合格者だけがスピーキングの2次試験に進む従来型と異なり、全受験生がスピーキングもうける。
ーだが、面接者や録音容器の確保に費用がかさむため、受験料は従来型と比べて割高となり、2級(高卒程度)の場合は、5800円が7500円に上がり、離島などを除き準会場での実施のしない予定だ。
ー以下省略(片山建志、峯俊一平)引用元:朝日新聞2018年3月27日(火) 35面
英検の扱いについてはもともと問題も抱えていたのですが、
この問題について、少し考えて見たいと思います。
なぜ、大学入学共通テストで民間試験を活用するのか?
文科省のホームページによると、下記のように説明されています。
ーグローバル化が急速に進展する中、英語によるコミュニケーション能力の向上が課題となっています。
現行の高等学校学習指導要領では、「聞く」「読む」「話す」「書く」の4技能をバランスよく育成することとされており、次期学習指導要領においても、こうした4技能を総合的に扱う科目や英語による発信能力が高まる科目の設定などの取組が求められています。
大学入試がこのような方向へ舵をきっていったのには、
その大本となる計画があります。
それが、平成25年に策定された
「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」です。
この計画が、現場の実態を無視して、なぜか2020年の東京オリンピックに照準をおいた拙速なものであったため、様々な部分で軋轢、混乱が生じています。
この計画については、以前もブログで話題に出していますが、
確認のため、簡単に内容を確認します。
「グローバル化」に対応した教育を進めるために、という名目のもとで
小・中・高等学校を通じた英語教育全体の抜本的な改革を行う、というものです。
【小学校の部門では】
・外国語活動を小学校中学年で実施
・高学年では、週3時間実施(外国科)
【中学校の部門では】
・授業を英語で行う
・・・そのため英語科教員は、英検準1級、TOEFLiBT80点以上の英語力を確保すること
☞生徒の英語力の検証として:中3の生徒で、英検3級以上 50%にする
【高等学校の部門では】
・授業を英語で行い、言語活動を高度化
・・・そのため英語科教員は、英検準1級、TOEFLiBT80点以上の英語力を確保すること
☞生徒の英語力の検証として:高3の生徒で、英検準1級以上50%にする
そして、このような「英語教育改革」を実施しているのだから、
4技能の力も高まっているはず。
→それに合わせて、大学入試も変革しなければいけない。
→しかし、全国で統一したスピーキング等の面接を伴う試験を実施するのは、施設・人材・それに伴う費用等を考慮すると現実的には無理。
→であれば、従来からある「民間試験」を活用すれば、問題は解決する。
→ある一定のレベルは担保しなければいけないから、「民間試験」を審査する。
→受験生は、いくつかある「民間試験」を自分で選択して、受験させよう。
というような形で、
「民間試験」の活用へと進まざるをえなかったのでしょう。
しかし、この「民間試験」活用は、当初から批判がでています。
「民間試験」活用への批判
2017年5月16日に、
当時の松野文部大臣が、2020年度から実施される「大学入学共通テスト」について会見が行われた時、すでに記者からこの「民間試験」活用への疑問が投げかけられています。
①都市と地方で受験の機会の差があったり、受験料が高い試験があったり、受験生に平等な受験機会を確保できるのか
②民間のテストで、学習指導要領に沿って学習した内容を測るのにふさわしいのか
③もともと民間の試験が入試を想定したものでないのに、入試として活用するのは適切なのか
この問題が、何も解消されることなく、
この大学入試改革は進んでいます。
また、2018年3月10日には、東大の福田学長が
「現時点で(民間試験を)入試に用いるのは拙速だ」述べ、民間検定試験を合否判定に使わない考えを記者会見で明らかにしたことも大きな影響を及ぼしそうです。
ーなお、東大では
合否は2023年度まで併存するマークシート式の共通テストと2次試験の成績で判断し、一方で受験生の民間検定試験のスコア提出は認め、入学後の教育に活用していく考えも示しました。
このような方向性を東大が示したのは、
民間検定試験は、それぞれ制度設計が異なり、測定する能力にも違いがあるとして、
合否判定の際に同一基準で比べることに対して疑問視する大学関係者の根強い意見の存在も
強く影響しているようです。
この大学入試改革は拙速なのか?
このような慌てた対応になる根源は、やはり
「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」にあると言っていと思います。
基本的な、小・中・高の英語改革のスタートは
・2014年度:計画実施
ー小学校担任英語指導力向上研修(2018年度まで)
ー中・高等学校英語教育推進リーダー養成研修(2018年度まで)
ー中・高等学校英語教員指導力向上研修(2018年度まで)
ーALT等の配置拡大・指導力向上
で、その改革の体制が整うのは、
・2020年度(東京オリンピック・パラリンピック)
と期限を切っています。
それまでに、
【生徒に対して求めるレベル】
・中学生:英検3級程度( CEFR A1 レベル)50%
・高校生:英検準2級程度( CEFR A2 レベル)50%
【英語教員に対して求めるレベル】
・中学校:英検準1級程度( CEFR B2 レベル)以上 50%
・高 校:英検準1級程度( CEFR B2 レベル)以上 75%
このようなレベルまで到達するように文科省は求めています。
疑問1 こんな短い期間で体制が整うのか
計画の開始は、2014年度で、体制が整うのが、2020年度。
この6年間で、
小・中・高校の「英語教育」に大きな改革を完成させる、というのが
文科省のスケージュールです。
これが実現可能なタイムスケジュールでしょうか?
効果的な改革を行うには、
縦のつながり、「小・中・高」すべてを変えて行かなくては「効果がでない」という、考えは分かるのですが、それを6年間という短いスパンで実現できるかは、別な問題です。
・一番大きな変化が起きたのは、小学校
ー今まで、なかった「英語」に関する授業を組み込ませました。
※補助教材は作成した、指導書もある。ALTを活用せよ。
電子黒板も活用できるようにした。教師は、生徒にとっても「学ぶモデル」とよい。
ALT,小学校の担当教員の研修も実施する。
~と言っても、目の前には「教えるべき子どもたち」がすでに
いるわけで、ほとんど何もよく分からないながらも、何とか週1の授業に
先生方は取り組んでいいたようです。
走りながら、考えてく、そんな感じがしばらくの間続いていたようです。
・中学校の英語教員、高校の英語教員は、
ー大部分は、「自分が教えてもらった教え方」を踏襲している人がほとんど。
すなわち、文法中心、訳読式の授業をしていた人が多かったようです。
そのため、突然、
「英語での授業を」と言われても戸惑った教員もかなりいたようです。
→教員が戸惑う、ということは、「生徒はもっと混乱している」はずです。
・しかも、この改革を、小中高で、一挙に6年間で推進させるというのです。
・そしてこの6年間の間での
【生徒に対する到達目標値】
【英語教員に対する到達目標値】まで、しっかりと設定されています。
(上記に明記。)
それがどの程度達成されたかというと、
平成30年4月6日に文部科学省が公表した平成29年度「英語教育実施状況調査」によると、
【中学校卒業段階の到達目標値:英検3級以上 50%】に対して
☞ 中学校3年生の40.7% (前年度比 +4.6ポイント)
【高校卒業段階の到達目標値:英検準2級以上 50%】に対して
☞ 高校3年生で英検準2級以上 39.3%(前年度比 +2.9%)
となっています。
これ、実は数値の「ごまかし」がある程度含まれているはずです。
というのは、
調査対象生徒が、「全員」英検を受けているはずはありえないので、
当然、担当教員が「授業やテストの結果」で「英検3級以上」の力があると想定された
生徒の人数の含められているのです。
このような部分を考えていくと、
公表された数値にも、かなり疑問があり、
実際に(ありえないですが)「全員が英検を受験したとしたら」
今の数値より、はるかに低くなる可能性はかなり高いと思われます。
文科省の短期間の無理に計画に、
それに応えようとする現場の教職員の忖度も含んでの数値を見ても、
何の意味があるでしょうか。
こう考えていくと、
やはり、今の計画は拙速であると考えざるをえません。
疑問2 なぜ英検を重視するのか
・通称、「英検」とは、
正式名称は、「実用英語技能検定」のことで、公益財団法人日本英語検定が実施する英語技能の検定のことです。英語に関連する検定としては日本では最も長く行われています。
※1961年 文部省社会教育審議会の答申を受けて、1963年日本英語検定協会が設立。
ー同年8月文部省の「後援」を受けて、第1回検定が実施。
ー1968年文部省から社会教育上奨励すべきものとして「認定」。
ー2006年文部科学省の「後援」の検定となる。(2005年に技能審査認定制度の廃止により)
(ウィキピデアより)
すなわち、
文科省が、英語教育を進めて行く上で、
特に「聞く力」「話す力」の分野における指導が不足していることは十分認識していたので、
それを少しでも補完する外部組織として、協会を設立させ、検定試験を実施してきたという経緯があったようです。
そのため、
中学校や高校では盛んに英検の参加を呼びかけてきたので、
現在では一番受験者が多い英語検定の地位を獲得してきたのです。
文科省のお墨付きの検定ということで、
英検の取得した級は、高校受験や大学入試でも合格判定で優先されたり、内申点で加点されたりと優遇措置をされてきました。
このような、
文科省の英検重視の姿勢が、そのまま、教育現場に影響を与え、
「教室では、文法・訳読中心」「英検で、聞く力・話す力を伸ばす」という
変な心理的なすみわけができてしまったのかもしれません。
その結果、
「やはり、教室での授業でもっと英語を使わせなければ」
グローバル化に対応できない!と判断し、経済界の要望もあり、
「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」へと導かれたのではないかと
思います。
このような状況であったため、
「大学入試にも聞く力・話す力の試験を」となった場合、
英検を想定し、「民間試験の活用を」となったのは当然の帰結です。
ただ、
大学入学共通テストで活用される民間試験を審査したところ、
なんと、一番信頼していたはずの「英検(従来型)」が落選してしまったのです。
それが新記事のタイトル「現行英検 落選ショック」となるのです。
「英語を使える日本人」育成のため?
ここまで、
英語の「聞く力・話す力」にこだわるのは、
「グローバル化」に対応し、「英語を使える日本人」を育成するためだと
思われます。
でも、
このような早急な体制変化、入試改革をすることによって
本当に「グローバル化」に対応できるのでしょうか。
アジアの国の大学入試(日本のセンター試験にあたるもの)を見てみると・・・
①中国・・・全国大学統一入試
➡日本の共通一次試験と類似した出題、難度の高い文法問題も出題
②韓国・・・大学修学能力試験
➡マークシート形式、「読む」「聞く」能力の評価に偏り。2015年から「話す」「書く」力も評価できる試験が導入予定であったが頓挫
③台湾・・・大学学科能力試験
➡高度な記述力が問われる。2014年度からリスニング試験を導入
どちらも、やはり「聞く力・話す力」の出題には
課題を抱えているようです。また、中国では、英語に対する配点を下げて
中国語や社会に対する割合を上げていっています。
ー英語教育の過熱化が、母語に悪影響を与えているようです。ー
そして、
日本でも苦肉の策として「民間試験」の活用を打ち出したわけです。
(韓国は、国策として英語の検定試験を新たに作り、大学入試から英語の教科をなくしてしまうという計画で税金を39億円以上つぎこんだが、その費用対効果が見い出せかったため、「白紙」になったようです。)
韓国の例を見て、
いかに英語の試験に「話す・聞く」分野を導入していくかは、
今後の試行錯誤しながら、現場に混乱を巻き起こしていくでしょう。
ただ、本当に「英語をつ使える日本人」を育成したいのであれば、
「形」だけ「入口(すなわち入試の部分で)」で試験を実施しても
あまり効果はないのでは、と思います。
要は、
できるだけ授業の中で、英語を「話し、聞く」活動を行い、
それを評価していくのか、という部分だと思います。
その部分を配慮しながら
小・中・高の土台となる枠組みをしっかり構築し、
普段の英語の授業を構成しなおしていく必要があるのだと思います。
授業でのそのような活動、評価を充実させていければ、
「共通テスト」の部分では、「リスニング」を充実させ、
「記述式」の問題を出題することにより、
ある程度の「スピーキングの力」も見ることができると思います。
これは、
あくまでも理想的なパターンなのですが、
最終的には、このような形に落ち着くのではないかと思います。
そのためには、
教員養成、教科指導についても根本的な見直しをしなくては
いけませんし、小・中・高の連携も再度考え直さなくてはいけないと思います。
そのためには、
現在のALTが、正教員となり、現在の英語教員があくまでもサポートに徹するという
指導体制になる可能性だってあるかもしれません。
いずれにせよ、
教育に大きな変革を起こそうとするならば、
しっかりしたグランドデザインの下で、中長期的な視野で計画を推進していかなくては
いけないと思います。そうでなければ、韓国の二の舞になるかもしれません。
(6年で基本的な枠組みを変えようなんて、とんでもないと思います。もっと長いスパンでみてもらいたい。)
理念なき改革は、
混乱・混迷状態を生み出すだけ。
今回の、
「大学入学共通テスト」に関しては、まだまだ不鮮明な部分があり
現場に戸惑いを投げかけています。
どんな方向に進んでいくのか、
どんな英語教育を文科省は推進させようとしているのか、を
こらからも注視していかなくはいけないと思います。
今回はここまで。
「大学入学共通テストで活用される民間試験」
には「その2」もあります。
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