少し前に読んだ新聞の記事が、
どうも気になってしょうがないので、
今回はその記事をテーマとして取り上げます。
私立中入試に英語 急増
今年の首都・近畿圏 4年前の7倍
という見出しの後にこんな感じの記事が続きました。
英語の入試を導入する私立中学校が急増し、今年は首都圏と近畿圏の約3割に当たる137校で行われる(実施済み含む)ことが分かった。4年前十と比べると、約7倍の増加。2020年度から小学校で英語が正式な教科になり、大学入試の英語も変化するなか、受験生や保護者に英語教育充実をアピールする狙いがありそうだ。
ー私立中学校の動向を分析している首都圏模試センター(東京都)と大手進学塾の浜学年(兵庫県)によると、今年入試を行う私立中学は首都圏(8都県)に303校、近畿圏(2府4県)に143校あり、このうち首都圏の109校(約36%)、近畿圏の28校(約20%)が英語入試を行うという。多くの学校は国語と算数が必須で、社会・理科と英語のいずれかを選ぶなどの選択型だが、英語単独の入試もある。
ー英語入試は、もっぱら帰国生を対象に行われていたが、数年前から一般枠でも行う学校が出てきた。14年は首都圏・近畿圏で計19校であったが、英語が得意な受験生を呼び込もうと中堅校を中心に導入が相次ぎ、137校まで増えている。
ー背景には、英語教育をめぐる変化もある。現在の小学5、6年は「外国語活動」として英語を学んでいるが、20年度から全面実施される新学習指導要領では正式な教科になる。「読む・書く」に加え、「聞く・話す」の4技能を測る大学入学共通テストが同年度から始まる。大手進学塾の栄光ゼミナール(東京都)の山中亨課長は「各中学は入試を通してグローバル人材の育成や英語教育の重視の姿勢をアピールしている。最近は、難関校でも始まり、広がるだろう」と話す。以下省略(峯俊一平、土居新平)引用元:朝日新聞 2018年1月19日(金)1面
前回(「過熱する韓国の英語教育」2018年1月21日(日)アップ)の記事でも
小学校での英語教育については取り上げたのですが、
今回はこの記事について、少し考えて見たいと思います。
なぜ、「私立中入試に英語が急増」するのか?
その理由は、はっきりしています。
減少する新入生を獲得するための私立中による差別化
そして、そのきっかけとなっているのが、
①新学習指導要領による小学校における英語の「教科化」
②保護者の「英語教育」に対する強い要望
の2つなのです。
きっかけ①小学校での英語の「教科化」
・小学校への「英語教育」の導入した原因としては
[1]「総合的な学習の時間」での「英語」の時間の増加
[2] 経済界からの「英語を使える日本人の育成」の要請
[3]グローバル化する社会に対応できる人材の育成
の3点があったのですが、
スタート時点から、学校の現場に混乱を起こすだけでした。
なぜなら、「現場」に「英語教育」を行うための「土台」が何もなかったからです。
そして、何を急ぐのか
(小学校の先生方は、やがて現在の「外国語活動」が中学年の方へ移行していくのではないか、という危惧を導入当初からもっていましたが)
20年度から、小学校3、4年で「外国語活動」、5、6年では「外国科」が開始されます。
正直言って、
公立小学校でしっかりした取り組みができているところは少ないですし、
またそれと連携した公立中学校も、文科省の意図通りの指導はできていないようです。
そこで現れてくるのが、
「保護者の強い要望」です。
きっかけ②保護者の強い要望
・少し古いデータですが、
2015年3月にベネッセが少学5,6年生とその保護者に実施したアンケート結果では、
保護者の約6割が「外国語活動」に満足していません。
という結果が出ていました。
その中でも以下の項目に関して特に満足していないようです。
(%数は、「満足していない保護者」の中での割り合いです。)
・73.9%:英語に対する抵抗感をなくすこと
・73.8%:子どもが英語を好きになること
・61.6%:英語の音やリズムに触れたり、慣れたりすること
・59.9%:中学校での英語学習がスムーズになること
・57.5%:英語を聞いたり話したりすること
この結果の傾向は、おそらく現在でもそれ程変わっていないか、
もしくは少しさらに悪くなっているかもしれません。
(平成23年度に「外国語活動」が全面実施となり、それ以降試行錯誤しながらも、
良い点よりも問題点の方が、多く表れてきたような傾向があります。)
この結果を見ると、
保護者が、小学校の「英語教育」の導入には強く賛同しながらも、
いざ開始してみたら、
「保護者自身が以前持っていた英語に対するコンプレックス」が
自分の子どもの様子を見ても、なにも軽減・解消されていないことに、
いらだちを覚えているのだと思います。
この「保護者のいらだち」が、
「もっとしっかりした英語教育をして欲しい」という「強い要望」へとつながるのです。
そして、「私立中による差別化」へ
・この「強い要望」は、どこへ向かうのか?
公立小・中学校では、ある程度学習指導要領のしばりがあるので、限界があります。
そこで受け皿になるのが、私立中学校なのです。
・少子化の傾向は今も続いているので、
塾などの「教育産業」は、この「縮む行くパイ」に対して、
様々な工夫をして「生徒」を確保しようとして躍起になっています。
ー最近は、この「小学校の英語教育」で特色を出すこと(今まではなかった、小学生に英語を教えるクラスを設けるなどの工夫)が、人数の囲い込みにつながり、成果を出しているところもあるようです。
・この状況は、私立中学校でも同じで、
各学校はその生き残りをかけて様々なマーケティング戦略に取り組んでいますが、
「小学校の英語教育」は格好の素材で、特の「保護者の要望」に応えようとしているのです。
→そのため、私立中学校は、公立中学校や他の私立中学校と差別化を図るため、
入試に英語を取り入れる、と言った極端な方向へ走っているのです。
例えば、
上記の新聞の別なページには私立中学校の英語入試の例として次のような問題も掲載していました。
大野中野中が昨年の英語入試で出題した、選択方式の英文問題
“( ) I use your dictionary?” “Soryy, you can’t. I’m using it now.”
(ア) Shall (イ) May (ウ) Must (エ) WillCould you give me ( )?
(ア) some advices (イ) an advice (ウ) some advice (エ) any advicesIf you want this pen, I’ll give ( ).
(ア) you it(イ) it you (ウ) it to you (エ) you to it”( ) going?” “I’m OK. Thank you for asking me.”
(ア) How’s it (イ) How’s you (ウ) How do you (エ) How’s引用元:朝日新聞 2018年1月19日(金) 31面
上から、①~④の問題として、その問題を見ると
①正解:イ
→ 許可を求める May I ~? の表現の問題:中学校2年生レベル
②正解:ウ
→ advice は「助言」という意味であれば 不可算名詞。また some には「なんらかの」という意味もある。:高校生レベル
③正解:ウ
→SVOOの第4文型を、第3文型に変える表現:中学校2,3年生レベル
④正解:ア
→「調子はどう?」というカジュアルな会話表現:中学校2,3年生レベル
となります。
内容を見ても、当然「学習指導要領」の範囲から逸脱していますし(もともと指導要領では、
ペーパーテストを考えていませんー論外だということです)、これを解ける生徒は、公立学校とは別なところで、英語の学習をしていた、またはそうしなければ合格できない問題を中学校側が作成しているということです。
このようなやり方が、
「強い要望」をもっている保護者に対して歓迎されるのでしょうか?
上記のアンケート結果を見ても、その方向性が違う気がします。
大部分の保護者は、
ー英語に対する抵抗感がなくなること、楽しんでほしいこと
を望んでいるのであって、英語を流ちょうに話せるエリートの育成を
してい欲しいわけではないのです。
ただし、新聞にも書かれているように
このデータは、あくまでも「首都圏と近畿圏」に限定されたものなので、
都会では「英語教育」がこのような「エリート人材育成」の方向へ走っていくのでしょうが、
その周辺地域や地方ではこのような現象はそれほど起こらないのでは、と思います。
なぜ、起こらないのか?
それは日本独特の風土があるからです。
以下、「過熱する韓国の英語教育」からの一部抜粋です。
・日本は、「英語が使えなくても、読めなくても」なんとかできる社会を構築してきたからです。日本ほど、海外の本を日本語訳をしている国はありませんし、海外の映画に「字幕」がつくのは日本だけらしいです(吹き替えが一般的らしいです。)また、自動翻訳機もこれから発達していけば、外国人との対話もなんとかなるでしょう。結局、日本は「内向きに社会」を作ってきたので、わざわざ「外に」でなくても「何とかなる社会」なのです。そのためここ最近日本人の留学生が減少しているのだと、私は思います。(海外のものを、日本風にアレンジして活用する、という風潮)
・本当の意味で、
日本が「グローバル化」に対応するというのであれば、
もっと積極的に国が「難民」を受け入れるような体制から始めなくてはいけないのです。
「経済界」と持ちつ持たれつの関係から脱却して。
やはり現実問題として、
地方に行けば、まだまだ「英語を話せなきゃ」という切実感は薄くなります。
そして、「ぼく・私は、英語を自在に扱えるようになって、一流企業に入社するんだ」
という人は、地方からその需要がある「都会」へ流出していきます。
その結果、どうなるとかというと
おそらく、
英語における格差が都会と地方でさらに広がる
という文科省が「建前」上で言っていることと逆の状態になると思います。
※「建前」とは
ー文言上では、日本の生徒が全員「英語を使える日本人」にするための施策だ、と
言っていますが、現政権と経済界の「濃密」な関係を見ると、本音は、
「自分たち(経済界の大御所たちの会社)に必要な英語を自由に使えるエリート」が
必要な人数分欲しいだけの「施策」であることが見え隠れします。
デジタルデバイド【digital divide 】ならぬ、
イングリッシュ・デバイド状態が、ひょっとしたら日本にやってくるのかもしれません。
こう考えていくと、
日本の「英語教育」の進み方は、このままでいいのかと
心配になるばかりです。
今回はここまで。
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