「民間試験」についての6回目。
今回は、なぜ「大学入学共通テスト」が実施する方向に
文部科学省が進もうとしているのかを、確認していきたいと思います。
◎まずは、現在の「センター試験」の前身となった
「共通一次テスト」を実施した経緯から見ていきましょう。
共通一次テストの実施から
・大学受験の過熱から、
「大学入試」のあり方がどうあるべきか、を考慮して
1979年から、国公立大学を対象として「共通一次テスト」が実施されましたが、その目的を見てみると下記のように示されています。
この共通第一次学力試験は、国公立大学の入学志願者に対し、各大学が実施する試験に先立ち、全国同一期日に同一問題で行われる試験であり、これによって、高等学校の段階における一般的かつ基礎的な学習の達成程度を問う良質な問題を確保しつつ、各大学がそれぞれの大学、学部等の特性に応じて行う第二次試験との適切な組合せによって、受験生の能力・適性を多面的・総合的に評価しようとするものであって、一回の学力試験に偏った従来の方法を改め、きめ細かで、丁寧な入試の実現を目指したものであった。
(文部科学省 「学制百二十年史」より)
・ポイントは、「偏向していた学力試験」を改め、「高等学校における一般的かつ基礎的な学習の達成度合」を問える問題の提供する、という部分です。
※「高等学校における一般的かつ基礎的な学習」とは、文部科学省が定める
「高等学校の学習指導要領の内容」に沿ったものである、という意味です。
▶︎その後、入試科目の弾力化、テスト時間の長さによる受験生の負担を軽くし、私立大学も活用できることを目的とし、「共通一次テスト」から名前を変えて、1990年から、いわゆる「センター試験」が実施されます。
▶︎この後も「センター試験」は、「学習指導要領」が改定されるたびに、
その内容に合うように、少しずつその内容を改定していきます。
▶︎2006年には、「英語」の科目に「リスニング」が導入されます。
▶︎2013年教育再生実行会議で第四次提言(高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について)において「大学共通入学テスト」が提言されます。
そして「大学共通入学テスト」へ
さて、この「大学共通入学テスト」は何を目的しているのかを確認しましょう。
文部科学省高等教育局(大学入学者選抜改革について(平成29年7月13日)より)
大学入学希望者を対象に、高等学校段階における基礎的な学習の達成の程度を判定し、大学教育を受けるために必要な能力について把握することを目的とする。このため、各教科・科目の特質に応じ、知識・技能を十分有しているかの評価も行いつつ、思考力・判断力・表現力を中心に評価を行うものとする。
▶︎結局、この「テスト」は
高校学校での学習と大学教育を、効果的に接続することにより、
「高校教育」「大学入試」「大学教育」の3つを一体的に改革しようとする
「高大接続改革」の一環なのです。
▶︎この「高大接続改革」では、グローバル化や情報化といった現代社会の急速な変化に対応し、新たな価値を創造していく力を育成するために、「学力の3要素」をバランスよく養うことを目的としています。
「学力の3要素」 |
①知能・技能 ②知識・技能を基にした思考力・判断力・表現力 ③主体性・多様性・協働性 |
▶︎そしてこの「学力の3要素」を養うことができるように
高校と大学を接続する「テスト」を改革していく、というのです。
👉従来の「センター試験」は知識・技能を中心の評価であったため、これを廃止し、特に「学力の3要素」の2項目め「思考力・判断力・表現力」を適切に評価するため、「大学入学共通テスト」を導入し、その中で
①記述式問題
②英語の4技能評価
を実施することとなったのです。
※確かに、「マークシート方式」の出題では、ある程度評価するものが「知識・技能」に偏向してしまう傾向があったと思われます。
英語の4技能評価へ
・英語においては、
グローバル化が急速に進展する中で、英語によるコミュニケーション能力の向上が課題となっているという認識のもとで、
平成25年に
「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」が策定されたのです。
👉この「計画」は
「グローバル化」に対応した教育を展開させるために、
小・中・高等学校を通じた英語教育全体の抜本的な改革を行う、
というもので、教育活動の場面で大きな影響を与えています。
【小学校の部門では】
・外国語活動を小学校中学年で実施
・高学年では、週3時間実施(外国科)
【中学校の部門では】
・授業を英語で行う
▶︎そのため英語科教員は、英検準1級、TOEFLiBT80点以上の英語力を確保
☞生徒の英語力の検証として:中3の生徒で、英検3級以上 50%にする
【高等学校の部門では】
・授業を英語で行い、言語活動を高度化
▶︎そのため英語科教員は、英検準1級、TOEFLiBT80点以上の英語力を確保
☞生徒の英語力の検証として:高3の生徒で、英検準1級以上50%にする
・この「計画」が
「高大接続改革」につながり、
そこから「大学入学共通テスト」が必要となり、
その中で、「英語の4技能」の評価をしなければならない、
という大きな方向転換の舵を切ったのです。
そして「民間試験」へ
▶︎グローバル化とう名のもとで
「英語教育改革」を推し進めているのだから、
「高校」でも「4技能」の力が高まっているはず。
▶︎「学力の3要素」から見ても、
もっと「英語」で「表現する力」を評価しなければいけない。
▶︎「センター試験」の英語の教科に、
「4技能」の評価を入れると、「大学」の英語も変わるはず。?
▶︎しかし、現在「センター試験」に
リスニングの問題を加えただけでも、様々な問題があるのに、
全国で統一したスピーキング等の面接を伴う試験を実施するのには、
施設・人材・それに伴う費用・評価の点数化の困難さなどを考えると
現実的には無理だろう。
▶︎そうであれば、
従来からある「民間試験」を活用すれば、問題は解決するのでは?
▶︎文科省は、一定レベルの高さを担保しなければいけないので、
CEFER のレベルに基づいて、それぞれの「民間試験」の内容を審査して、
適切な「民間試験」だけを、受検できるようなシステムにしよう。
▶︎受験生は、そのいくつかの「民間試験」の中で、自分に一番良いものを
選択して、受検するという形でいいのでは?
👉おそらく
このような流れで「民間試験」の導入へと
進まざるを得なかったのでしょう。
おまけ
・実は、韓国も
「英語教育改革」の中で、「大学入試」の英語の試験に韓国独自の4技能の評価するテストを2013年に導入しようとする施策があったのですが、2016年にその計画は中止となり、39億円ほどの予算が無駄になったということがありました。
▶︎日本は、その「事例」を参考にして「民間試験」を取り入れるのが
一番だと、判断したのかもしれませんね。
※この韓国での「英語教育改革」については、
下記の記事を参考にしてください。
「韓国の『英語教育大改革』、失敗か?」-東洋経済 on line 2014/1/23
今回はここまで。
「大学入学共通テストで活用される民間試験」
には「その7」もあります。
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